雪が降った翌日公園にみんなで散歩にいくと、たくさんのつらら
軒先にならんだつららの一家のそばにあるトチの木が、つららのぼうやに語りかける。自分がいつか融けて死んでいくということに怯え悲しくて泣いているつららのぼうや。いろんな生命の生き死に長い間ずっと見てきたトチの木が、優しく命の尊さを伝えてくれる。
「水に生まれ変わるだけさ。おまえたちのおかげで生きものみんなが生きていける」
つららのぼうや (青木新門 作)
作者の青木新門さんは「おくりびと」制作のきっかけになった「納棺夫日記」の作者
この絵本の作者の青木さんは、もっくんこと本木雅弘主演の映画『おくりびと』ができたきっかけになった「納棺夫日記」という本の著者であり、ご自身が納棺師(葬儀前に遺体をきれいに整えるお仕事)という死を最も身近に感じ続けるお仕事の一つをされていた詩人だそうだ。きっと長く深く、そして死について優しい価値観を感じる上に、水という無形のもので命が巡ることを表現する、そこに仏教的な解釈を感じられる。絵本を読んだ後、この作者のバックグラウンドを知って納得した。ちなみに作者の青木さんは残念ながら昨年2022年に85歳亡くなられたそうだ。ご冥福をお祈りします。
対象年齢は小学校低学年からとされているが
この絵本は小学校低学年からが対象とされていた。我が家の二人の子供はどちらもじっと聞き続けていた。息子は幼稚園年中で、出版社の想定している対象年齢よりは低いけど、主人公がつららのぼうやという小さな子のお話だからか、共感を持って聞けたんじゃないだろうか。息子はまだ死について考え表に出して悲しんでいるところは見せたことがない。それでも息子はなくなっていくものの儚さや寂しさは感じている様子は何度も見せている。それを感じる出来事が最近あった。例えばどちらも彼がハマっているテレビ版ドラえもんを見ていてのことだったのだけど、一つは蒸気機関車が引退していく哀愁漂う回と、もう一つは何でもロボットにすることができる道具で雪だるまをロボットにした話を見た時だった(そのあとその雪だるまロボットが融けてしまってお別れになる)。息子はこれらのお話を見ながら涙を浮かべていた。いなくなっていくものに切なさを感じ涙する彼なら、この絵本はきっと響くものがあったと思う。
対して小2の娘は、人や動物がいつか死んでいくことを思うと悲しくなり、泣いてしまうことがある。いつも励ましてやろうと声をかけてやりはするのだけど、どうしてもその言葉は僕や妻の考え方がベースになった言葉だ。これとはまた別のアプローチで仕上がった言葉を届けてあげることができるのが読書のいいところだと思う。視野が広くなり物事の捉え方の幅が広がる。この絵本も、二人の子供たちが死について気持ちを巡らせる時、慰めてくれる一つのストーリーになるんじゃないかなと願っている。
消えていくつららのぼうやにほろっとした余韻を感じながら、この夜二人は静かに寝ていった。